条件付けを変えることで対処する

不安・緊張・恐怖といった感情を感じる刺激(状況、場所、物など)と向き合った時、それらの感情と同時に感じることのできない感情や感覚、つまりリラックス感、心地よさ、安心感などを繰り返し感じる経験をすることで、新しくリラックス感、心地よさ、安心感といった感情や感覚と対象刺激との条件付けが成立し、同時に対象刺激と不安・緊張・恐怖との条件付けが解消されるため、対象刺激から不安・緊張・恐怖を感じなくなります。

注目・注意(小)

この方法を「系統的脱感作法」(逆制止法)といいます。

リラックス感、心地よさ、安心感などの弛緩反応を生み出す具体的な方法には、
主張反応、運動反応、漸進的筋弛緩法、自律訓練法、呼吸法、自己弛緩法、催眠療法、イメージ訓練法などがあります。

系統的脱感作法のやり方

  1. 相談者とカウンセラーの信頼関係づくり
    カウンセラーとともに行う場合、相談者とカウンセラーの信頼関係が十分にできていないと、相談者が系統的脱感作法に集中することができないため、弛緩反応を作ることができなくなってしまいます。
  2. 事前説明と効果や目的への同意
    相談者に系統的脱感作法の流れや意味、目的や期待される効果について、事前に説明して十分な理解を得ることが大切です。
  3. 階層表を作成する
    不安・緊張・恐怖をどんな場面で感じるかを聞き出します。
    同じような場面はひとつにまとめて、10場面に整理します。
    また、場面はできる限り具体的にしておきます。
    次にそれぞれの場面での、不安・緊張・恐怖を0~10点で評価します。(SUD:自覚的障害単位)
  4. 弛緩反応を引き出す練習をします。
    弛緩法にはいくつかの方法があります。
    自律訓練法を用いる場合が多いようですが、自律訓練法を習得するためには多くの時間が必要なので、全て習得するのではなく、第2公式の「四肢の温感」まで習得を目指して実施すると良いでしょう。
    また、呼吸法やイメージ技法などを用いることも有効です。
イメージする女性

イメージを使った系統的脱感作法

系統的脱感作法の手順

  1. リラックスできる椅子に座るか、仰向けに寝転びます。方法を選択して弛緩反応を行います。
  2. 弛緩状態(リラックス感、心地よさ、安心感)を感じられたら、目をつぶったままでどちらかの手の人差し指を上げて合図してもらいます。
  3. 階層表中でSUDが一番弱い場面をイメージしてもらいます。
  4. 不安・緊張・恐怖を感じたら、その強さをSUDで答えてもらいます。
  5. もう一度、弛緩反応を行います。
  6. 弛緩状態が得られたら指で合図してもらい、不安・緊張・恐怖の強さをSUDで答えてもらいます。
  7. 不安・緊張・恐怖の強い場面のSUDが0点に落ちるまで、あるいは相談者が「もう大丈夫」と感じるまで③〜⑥を繰り返します。
  8. 階層表のSUDのレベルがひとつ場面に取り組みます。(③〜⑦)

最終的にもっとも不安・緊張・恐怖の強い場面のSUDが0点に落ちるまで上記の手続きを繰り返します。
SUDが0点に落ちない場面では、同じ刺激場面を数回繰り返ましょう。
SUDが完全に0点に下がらなくても、相談者が「もう大丈夫」と感じれば次ぎの刺激イメージにすすんで大丈夫です。

注意事項

SUDが高い項目では刺激になるイメージを浮かべた瞬間に、不安・緊張・恐怖が急激に高まってしまうことがあります。
そうなった時は、どちらかの手の人差し指を上げて、合図するという取り決めをあらかじめしておくと良いでしょう。

無理をして続けることで系統的脱感作法への取り組みのモチベーションが低下して、取り組みを続けられなくなってしまうことがあります。
その場合はすぐに中断しましょう。

この場合、2つの原因が考えられます。

  1. 十分な弛緩状態が得られていないために、不安・緊張・恐怖が高まった
    この場合は、一度中断してから、もう一度十分な弛緩状態を作って取り組みを再開するか、弛緩反応を引き出す練習をもう一度行い、十分な弛緩状態をつくれると感じてから改めて取り組みを羽島ましょう。
  2. 階層表のSUDレベルの分配が不適切だった
    連続する2つの場面のSUDに差ありすぎて失敗したと考えられます。
    中間的な場面を2つの場面の間に挿入し、その場面から再開すると良いでしょう。

系統的脱感作法には、上記のようなイメージによるものと現実の場面によるもの(現実脱感作法)があります。
後者は、不安・緊張・恐怖が生じている現実の場面で系統的脱感作法を行います。
イメージを思い浮かべる事ができない人(子供や一部の成人)には現実脱感作法を用いる事になります。

ちょっと休憩・・

ちょっと休憩・・

例)水を怖がってプールに入れない幼児

  1. 子供に水着を着せる
  2. 親が子供を抱いたままプールに近づく
  3. 子供を抱いたまま、子供の手足に水をかける
  4. 子供を抱いたまま子供の手足を水につける
  5. 子供を抱いたまま、子供を腰の辺りまで水につける
  6. 子供を抱いたまま、子供の胸のあたりまで水につける

といった段階を作って取り組んでいきます。この場合、親に抱かれている事が弛緩反応になっています。

留意点

  • 漠然とした不安や悩みは対象にできません。具体的な場面が必要です。
  • 不安・緊張・恐怖の強さの程度が場面によって異なる場合に限り有効です。階層表を作成できない人は対象を対象とするは難しいでしょう。
  • イメージすることが極めて苦手な人がいます。
    この場合、イメージ能力の向上のトレーニングを行ってイメージ能力を向上させてから行うか、現実場面で行うかの選択が必要になります。
  • 自律訓練法に限らず、弛緩方法を選択し、十分に弛緩状態を作れるようになってから取り組みましょう。

慣れてこれば相談者一人でもできますが、慣れるまでは不安・緊張・恐怖の強さに飲み込まれてしまうことがあります。
そうした場合でも対処できる自信がつくまではカウンセラーなどの補助者とともに行いましょう。