家族をシステムとしてとらえる
家族療法では家族を個人の集合体でなく、お互いに影響を与え合うシステムとしてとらえます。
ですから、家族の誰か1人が精神的トラブルを抱えたり問題行動を起こしたときは、家族というシステムで大きな変化が起こったと考えます。
精神的トラブルを抱えたり、問題行動を起こす人(Identified Patient:IP)がいる場合、
- IPの言動に対してどんな対応をしたらよいかが分からない
- IPから様々な要求をされることで家族の他のメンバーが強いストレスを感じる
- 家族がストレスを感じることで、IPと上手に接することができなくなる
- IPは家族の態度をみることで、精神的なトラブルが悪化したり、問題行動が激しくなる
- IPと家族の関係が悪化 ⇔ IPの状態が悪化 を繰り返す悪循環に陥る
ですから、家族療法ではIPだけを対象としてケアを行うのではなく、このような家族内での悪循環を断ち切るためにIPと家族を対象としてケアを行います。
家族をシステムとして捉えるということは、今の状況になったのは「親の責任である」「IPのせいで家族が崩壊した」といった捉え方ではなく、すべての家族の相互作用を明らかにすることによって問題解決を目指します。
こうした捉え方を家族療法では家族の円環的理解と呼んでいます。
ですから、行動的家族療法(Behavioral Family Therapy)では、IPだけでなく家族も支援対象と考えます。
そして、行動療法の技法を使って問題を継続、あるいは増悪させている家族内でのやり取りを修正するための支援を行なっていくのです。
行動療法では人間の行動を刺激(Antecedent:A)→ 行動(Behavior:B)→ 結果(Consequence:C)の枠組み(三項随伴性)でとらえて、ABCそれぞれに介入することで、行動をより適応的なものに変えていきます。また、家族の相互作用を捉える場合も三項随伴性を使って捉え直します。
例
- 子供がテレビを見ている
- 親から学校のことについて聞かれる(A:刺激)
親の行動は子供にとって望ましくない結果(罰)として機能します - 子供が食事後、すぐに自分の部屋に行くようになる(B:行動)
その結果学校のことを聞かれずに済む(罰の回避) - 家族のコミュニケーションの機会が減少(C:結果)
家族の誰かの言動がが他の家族への刺激になって、その刺激にへの反応が他の家族の行動の結果になるのです。
ですから、家族の言動が変われば、他の家族の行動も変わるのです。行動的家族療法では、
- 心についての知識を学ぶこと
- 行動のコントロールの方法を学ぶこと
によって、家族間の相互作用に望ましい変化をもたらすことを目指しているのです。
実際の対処としては問題への対処スキル訓練などが行われます。
条件付けの原理を用いて行動の随伴性をコントロールするためのスキルを親が学びます。
三項随伴性の枠組みでとらえた場合、問題行動が増えている時はその行動をすることで
- 望んだ結果(例:親からの注目を受けるなど)を得る
- 嫌なことがなくなる(例:学校に行かなくてもよいなど)
の報酬を得ています。
ですから問題行動を減少させるために、環境や行動に対する結果を変えたりするのです。
また、家族に対する随伴性マネジメントの訓練、IPに対するリラクセーション訓練やポジティブ自己陳述、ディストラクション(注意そらしなど)の練習なども行われます。
また、最近では「ひきこもり」という問題を抱える家族も増えています。
引きこもり状態を示す人は、さまざまな精神疾患を抱えているケースが多く、強迫性障害、うつ病、統合失調症、社会恐怖(社会不安障害)などを発症している場合も少なくありません。
ですから、「家からでない」という状態を「ひきこもり」とひとくくりにして考えるのではなく、その人たちがどんな精神状態であるかを明確にした上で対応策を検討する必要があります。
しかし、「ひきこもり」のひとが医療機関を訪れることは極めて少ないので、家族が精神疾患や問題行動に関する適切な知識と対応方法を身につけていることが重要になるなります。
つまり、IPの家族が精神疾患に関する知識を持つこと、対応方法を身につけることからスタートする必要があるということです。