疑似体験を通してスキーマの源に働きかけよう
過去の辛い経験を思い出すと、その時の辛い感覚や感情が蘇ってきて、その影響にとらわれ続けている自分に無力さを感じてしまうものです。心に根付いてしまったネガティブな感情や感覚に働きかけるには、ロールプレイングやイメージ法を使って繰り返し疑似体験をすることが有効です。その時に幼少期に自分を傷つけた人の言動に対して反論したり、自己主張をしたり、その場をうまく切り抜けたりといった望ましい体験を繰り返していくことが必須です。
ロールプレイング
- 自分に酷い扱いをした人(Z)の役を信頼できる人(A)にやってもらいます。
2脚の椅子を向い合せに置いて、自分とAとが向かい合って座りましょう。ロールプレイの相手を誰かにしてもらうのではなくエンプティ―チェア(誰も座っていない椅子)にZが座っているとイメージして行っても結構です。(どちらがやり易いのか、効果が高いのかを実験してみてください) - 「スキーマの源に手紙を書く」で書いた手紙を元に、Aに向かって手紙に書き綴った気持ちをぶつけましょう。
- Aには必要に応じて、Zの立場から反論してもらいましょう。
Z役をやる人がいない場合は、自分に酷い扱いをした人が目の前の椅子に座っているとイメージしてみましょう。その人に向かって、どれほど間違っていたのかを伝えていきましょう。ロールプレイングを通して自分を苦しめるネガティブなスキーマについて再検討し、その時自分で納得できる選択をした自分を心の中に定着させていきましょう。
イメージング
イメージはより具体的で鮮明な方が効果が高く、練習すればするほど効果は高くなっていきます。まずはイメージを決めます。スキーマの源になった思い出をイメージしていきましょう。より鮮明にイメージできるように毎日繰り返していきましょう。
具体的にイメージしてみましょう。イメージする時に意識する基本は視覚、聴覚、身体感覚の3つです。
視覚
視覚からイメージし始めましょう。コツは目の前の事だけではなく、その日の空の色、車の中においてあったCDのジャケット、周りの人の表情など、空間を広げるつもりで細部まで丁寧にイメージすることです。
ここで気をつけることは、何割かの人はイメージした時、その場にいる自分を遠くから見ているようなイメージ(ディソシエートした状態)を浮かべます。こうすると感情の高まりや変化を感じにくくなってしまいますので、自分がその場にいる状態でイメージします。(アソシエートした状態)うまくいかない場合は、遠くにいる自分に少しずつ近づいて行って、近くに立ち、触れ、一体となるようなイメージをしてみましょう。
最初ネガティブな感情や感覚に支配され気分が悪くなってしまう人は、あえてディソシエートした状態からイメージしていきましょう。その場合、その思い出を落ち着いて見れる距離、5m離れてみる、10m離れてみる、2階の窓からガラス越しに覗いている、ビルの屋上から見下ろしている・・どの程度そのイメージから距離を取ったら落ち着いて見られるかをテストしながらイメージを繰り返しましょう。
慣れてきたら順番にイメージとの距離を縮めていって、アソシエートした状態でイメージできるようになるまで練習していきましょう。怖い相手などを小さめにイメージしたり、少し滑稽な服装をさせてみたり、イメージを早回しで再生してみたり、映像の色合いを調整してみたり・・視覚的加工を施すことでネガティブな気持ちを緩和してみるのも役に立つでしょう。
聴覚
次に聴覚です。
その日の風の音、街鳴り、声、テレビの音など、これもできるだけ丁寧に範囲を広げて詳細にイメージしていきます。音の数、距離、方向などできるだけ詳細にイメージしていきましょう。
どうしてもイメージに圧倒されてしまう人は勇気の出るBGMなどを鳴らしてみるのも役に立つでしょう。聴覚的な加工を施すことでネガティブな気持ちを緩和してみると良いでしょう。
身体感覚
次は身体感覚です。
風が触れた頬の感触、その日の気温(暑さ、寒さなど)からだに感じた感触を丁寧に思い出し、それをどう感じたのかを思い出してみましょう。自分の体が大きくなったような感覚をイメージしたり、体から力があふれてくるような感覚をイメージしてみるのが役に那立つかもしれません。防具をつけたり、ヘルメットをかぶっている感覚をイメージしたり・・身体的的な感覚に加工を施すことでネガティブな気持ちを緩和してみると良いでしょう。
本番(イメージの合成)
視覚、聴覚、身体感覚を丁寧に思い出したら、その時取りたかった言動を取ってみましょう。相手の反撃を受けたり、ネガティブな感情が強くなってきたら一旦停止し、どんな言動を取れば良いか、視覚、聴覚、身体感覚の加工法を再検討して再チャレンジしましょう。
ネガティブなスキーマの源になった思い出を乗り切れるまで、感覚の加工法、言動を再検討して繰り返しましょう。その思い出をイメージの中でうまく乗り切れたら、最後に、自分が今どんな感情で、その感情を体のどこで感じているかを丁寧に感じ取りましょう。
成果の確認と定着
- その困難な状況を乗り切った時の感情や感覚は、体のどこでどんなふうに感じますか?
- 心地よい感覚は感じますか?
- その感覚を丁寧に味わったら、それが自分の体の一部として定着するイメージを1~2分ぐらいとってみましょう。
- Zはどんな点で間違っていたのでしょう?
- 自分がスキーマ(例:大切にされない)に当てはまらない理由を伝えてください。
- 今、Zについてどう感じていますか?それをZに伝えてください。
- 今後どうなるかをZに伝えましょう?Zが自分に対して何ができなくなるのか(例:自分を抑えつける)をハッキリとつたえましょう。
ロールプレイングやイメージング中に生じた感情は、過去に植えつけられたスキーマから生まれています。スキーマの源に影響を与えて変化させようとすると、屈辱感や恐怖といったネガティブな感情やその感情に関連する思考が生まれてくるでしょう。罪悪感を抱くこともあります。それらの感情はスキーマが植えつけられた際に感じたものです。
こうした感情が強く上手くできない場合は、呼吸法やリラクセーションの練習を行ってから再度挑戦するか、カウンセラーなどの専門家に援助してもらいましょう。