エクスポージャーと儀式妨害(暴露反応妨害ERP)
強迫性障害の方の回避行動には手洗い、確認などの儀式行為があります。
回避行動として儀式を行うのは恐怖刺激に接している時だけとは限らず、恐怖刺激が去った後におこなうこともあります。
広場恐怖は取り組みの最中の回避・逃避を対象にすれば良いのですが、強迫性障害の場合取り組みの後も長時間儀式行為をしないための工夫が必要になってきます。
- 段階的エクスポージャー
不安を感じる刺激、場面を書き出し、それらを不安の強さによって順番に並べ直します。
このリストを不安階層表といいます。
そして不安階層表を基準にして不安の弱いものから段階的にエクスポージャーを行っていきます。自覚的感覚を数字で評価します。(SUD)最高に不安を感じる場合100、不安を全く感じない場合を0とした時、30程度の強さの刺激を最初に選び出して、その不安に対してエクスポージャーを行った後、SUDが半分以下になったら次のレベルの不安に取り組むようにします。
- フラッディング
段階的エクスポージャーが不安レベルの低い刺激から順番に取り組むのと異なり、高度に不安を引き起こす刺激、SUDでは80程度の刺激からスタートします。 - 内部感覚エクスポージャー
パニック障害の方が最も恐れているのは、電車、バスといった対象物ではありません。その刺激に接した時に感じる突然死、窒息死、酸欠死などを予期させる身体的な不調の感覚です。過呼吸などにが起こることで感じる身体的不調を、浅い呼吸、息を止める、グルグル回るなどを行うことで意図的に起こして、コントロールできないと感じている内部感覚が生じても、そこから回復できたという経験を繰り返します。 - 恥さらし訓練
社会不安障害の方に多く用いられる技法です。
社会不安障害の方が最も恐れているのは、公衆の面前で恥をかくことです。
ですから、目立つ行動を人前で行って、自らの意思で積極的に恥をかくようにすことで恥に対する概念を変化させていきます。 - キューエクスポージャー
アルコール常用癖では酒の販売店、過食症では目の前の食事がエクスポージャーの対象刺激となります。
対象刺激を見た時に衝動的な行動をしないように自分をコントロールする経験を積んで、その時間を次第に延ばしていきます。
衝動に対するキッカケになる刺激のことをCUE(キュー)と呼ぶことからキューエクスポージャーと呼ばれています。 - セルフエクスポージャーと補助によるエクスポージャー
行動療法のほとんどの取り組みは自分一人で取り組むこともできますし、カウンセラーなどの補助者の協力のもとで行うこともできます。
しかし、強迫性障害をケアする場合、全ての取り組みを一人で行った場合と補助者の協力があった場合を比較すると、一人で行った場合より補助者の協力があった場合の方が効果が高くなる傾向があります。なぜなら、自分一人で行った場合、儀式を完全に妨害することができないことが多いからです。
しかし、本人が自分で行うセルフエクスポージャーのスキルが上達することで、儀式妨害を継続することができるため、儀式を完全にに消去することにつながります。
実施上の注意点
強迫性障害の方がエクスポージャーを行う場合、うつ状態が強い時は効果が低くなりますので、うつ状態が強い時は先行してうつ状態への対処が必要になってきます。
また、エクスポージャーの間は様々な感情や反応が起こりますが、カウンセラーなどの補助者は、エクスポージャーに取り組んでいる人が示すどの全ての感情、反応を共感的に受け止める必要があります。
不安と、恐怖と混乱の中でエクスポージャーという取り組みを続けるためには、大変な努力と勇気が必要だからです。
さらに補助者はエクスポージャーに取り組む方の努力と勇気が報われていると感じられるようにサポートしていく必要があります。
行動契約を取り交わしたり、エクスポージャーにリラックスできる環境やリラクセーションなどを随伴することでそうした感覚を強化していきます。
また、一人でエクスポージャーに取り組む場合は、強いルールが必要です。
取り組みによって得られる利益、取り組みを行う予定を具体的に明言して、周囲に知らせることがルールを強化します。パブリックポスティング、プレコミットメントが役立つでしょう。
- パブリック・ポスティング
セルフ・コントロールの技法で、ダイエットなら「目標体重を誰の眼にも触れるように貼りだしておく」など周知すること - プレコミットメント(自主的制限)
実施前に取り組みについての制限やルールを作ること。
例えば、食べるのを我慢するという意思ではなく、不健康な食物を購入しないというルールを作る、浪費を我慢するという意思ではなく、引き出し手数料が高額な口座にお金を預けるというルールを作るなどを行います。