辛く苦しい出来事(トラウマ的記憶)が心の中から消えず、自分の意志とは違った言動を取ってしまうことがあるものです。
そうした記憶があると、多くの人は心の中に抑え込んで、思い出さないようにすることで自分を守ろうとします。

カウンセリングのポイント

カウンセリングのポイント

しかし、感情曲線の項でも書いたように、抑え込んだ感情は弱まることはありません
普段は忘れていても潜在意識の中に存在したままで、その人の言動や選択に影響を与え続けます。

ですから、現在の言動や選択が自分の意志とは異なったものになってしまったり、そのことで問題が生じている場合は、抑え込んだ感情にスポットライトを当てて感じ切る必要があるのです。

そのためには、頭の中で曖昧に考えるのではなく、その出来事について自由に書き出して、その出来事のストーリーや感情を明確にするという方法が有効です。
そして、その過程で自由な感情表出(ベンチレーション)が生じて、頭の中で曖昧になって気づけなかった出来事の持つ意味にきめ細かく気づけるようになっていきます。

抑え込んだ感情にスポットライトを当てる作業は、辛く苦しい出来事を明確化するので、それに伴って辛さや苦しさといったネガティブな気分も一時的に強まることがあります。
しかし、ほとんどの場合、数日あるいは数週間のうちに、ネガティブな気分やそこから生じるストレスは軽減されていき、繰り返すことでトラウマ的記憶からの影響やそこから生まれたスキーマは弱まっていきます。

チェック

チェック

この技法を行う前に考えて欲しい事

  • 辛く苦しい出来事や体験(トラウマ的記憶)を思い出しても安全でいられるのはなぜでしょうか?
  • その体験を書き出し、再体験しても、自分を苦しめた人物が現れたり、酷い体験が再び起こったりしないのはどうしてでしょうか?

例えば、

  • あれは過去の出事で、対象者がどこにいるかさえわからない
  • あの時は子供だった
  • あの時とは状況が違う

といったことです。

第三者とその理由について話し合ってみるのも良いでしょう。
この技法の後にスキーマの源に手紙を書く、イメージ再構成法(ストーリーを語りなおす:今後ご紹介します)などを行うと効果が高まります。

練習方法

  1. 「ストーリーを書き出してみる」を使って出来事を書き出し、20分以上かけてしっかりと振り返ります。
    視覚、聴覚、体の感覚を1つずつ丁寧に思い出します。
    風の音や空の色、気温や温度関係のなさそうなものまで丁寧に思い出しましょう。もし思い出した映像が、遠くから自分を見ているような映像の場合(ディソシエーションした状態)、自分の体に近づいて1つになってみましょう。
    そして自分の目からその映像を見ている状態(アソシエーションした状態)で思い出しましょう。自由な感情表出(ベンチレーション)が高まります。
  2. 書き出した記憶を読み上げ、1つのストーリーとして語ってみましょう。
  3. その時の感情やその強さを書き出してみましょう。
  4. 3で読み上げた時どんな考えが浮かんできたのかを書き出しましょう。
  5. その記憶の中でどの部分が一番つらかったのか、それはなぜなのかを特定し書き出しましょう。
  6. その記憶を思い出してどんなふうに感じるかを書き出しましょう。
  7. 1~6を行って気づいたことを書き入れましょう。
認知行動療法-ストーリー書き出すことで感情と向き合ってみよう

認知行動療法で使用するストーリー書き出すことで感情と向き合ってみよう」の記入例

88:「ストーリー書き出すことで感情と向き合ってみよう」シートのダウンロード

以下の事について検討してみてください

  • 長い間、自分を苦しめて出来事は、どんなものですか?
    その出来事でどんな事を体験しましたか?
    できるだけハッキリと思い出してください。
  • それを書きだしてみましょう。
  • 書き終わったら、声に出して読んでみましょう。
  • どの部分が最も辛かったですか?
    読み終わって、どう感じますか?
  • 今まで、そのことを誰かに話したことはありますか?
  • 自分を苦しめてきた辛い記憶を思い出し、向き合うことはとても重要です。
    その記憶からの影響を受け続けているからです。
  • それらの記憶を書き出すことで、明確に思い出して1つのストーリーとして語ってみましょう。
  • それによって過去の体験の持つ意味や、その時の自分の感情や立場、環境、思考を、より理解するために役立ちます。
  • それらの記憶と距離をおくことができるようになると、物事を今よりも、もっとコントロールできると感じられるようになるでしょう。
  • そのような過去の出来事を思い出すのはとても辛い事かもしれません。
    しかし、今の辛さが、あなたが今後もっと良い方向へ進んでいくための最初の一歩となります。
  • どんな出来事が起きて、その出来事においてどんな体験をしたのか、できるだけ明確に思い出してみてください。
    視覚、聴覚、体の感覚をフルに使って、20分間、その出来事について、感じたり思ったりすることを、全て書き出してみましょう。
  • その出来事は、自分にとって、どのようなものだったでしょうか?

 

ネガティブなスキーマと向き合ってとらえ直そう

ネガティブなスキーマと向き合ってとらえ直そう

自由な感情表出(ベンチレーション)の前に、ネガティブな感情が一時的に高まる可能性があることを理解してください。
また、ベンチレーション中に動揺が強すぎて耐えられなくなってしまうのが怖い人は、呼吸法などのリラクセーション法を良く練習し、リラクセーション能力を高めてから行いましょう。

もし、大きな動揺が生じてしまったら、練習したリラクセーション法を使って、ネガティブな感情を低下させることに集中しましょう。
リラクセーションのする場所いつも同じ場所に決めておいて(リクライニングシートなど)、その場所へ移動してリラクセーションや深呼吸を行うのも良い方法です。(条件づけ)

また、「この技法を行う前に考えて欲しい事」を紙に書き出しておいて、それを繰り返し大きな声で読み返すのも良いでしょう。
トラウマ的記憶を思い出したら、自分がいっそう酷い状態に陥ってしまうと感じる人もいるでしょう。

それは「もし、嫌な気分になってしまったら、それが2度と消えないのではないか」などの信念による影響だと考えられます。
そのような場合は、辛く苦しい記憶の階層表(レベル1~10に記憶を分類した表)をつくって、辛く苦しい記憶の弱いもの(レベル1)から順番に出来事を思い出し、「嫌な気分が強くなるのか、弱くなるのか、消えてしまうのか」を実験してから行ってみましょう。

また「辛く苦しい感情は避けなければならない」という信念を抱いていることで、過去の記憶を十分に再体験できず、その結果、トラウマ的記憶の影響を受け続け、今の自分が、自分の望んだ言動や選択ができなくなっていることや、その時とは違う現実が目の前にあることに気づくことができなくなっていることについて考えてみてください。

トラウマ的記憶を明確にする際の自己防衛のための妨害について

トラウマ的記憶を明確にしようとする際、自分を守ろうとして知らず知らずのうちに記憶を思い出し、明確にすることを自分で妨害してしまう場合があります。
その方法には以下のようなものがあります。

  • 大急ぎでストーリーを語り終えようとする
    (20分の時間をかけることができない)
  • 肝心な場面を省いてしまう
    (肝心な部分が省いてあるので、第3者客観的に読むと内容を理解しづらい)
  • トラウマ的記憶と明らかに関係ありそうな感情を無視して書き出さない
    (第三者が読んだ場合辛く苦しい体験だと理解しづらい)
  • 書き出そうとすると「心ここにあらず」といった解離的態度になり、ボーっとしたり、他事を考え始めたりする
  • 不適切と思われる感情が出てくる(笑う、機械的、無表情、無感情など)

これらの自己防衛に気づいたら、リラクセーションを行ってから再度実施してみましょう。

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